足の甲にヒヤリとしたシーツが触れる。冷たさから逃げるように身じろぐと、温かい場所を見つけた。すりすりと、秀一さんの逞しい足首に擦り寄ってみると優しく受け入れてくれる。ああ、好きな朝だ。
「……ん、」
腕を伸ばして深呼吸。瞼を開けてみると視界の先、目覚まし時計と目が合った。短針は真左を指している。もう九時……? いや。
「ん……しゅういち、さ、っ!」
今日はとんでもなく眠ってしまっていたようだ。十時近くまで寝ていただんなんて、一体いつぶり? 慌てて背後にいる秀一さんを起こすけれど、彼は私の思いとは反対に強く抱きしめ返してくる。
「あ、だめ……っ!」
「ん?」
「ちがっ、まって、起きなきゃっ」
「……いいじゃないか、」
秀一さんの少し掠れた声が、私の母性本能をくすぐる。とてもアンニュイな、それでいて甘く蕩けるような声。まだここに居たいのだと、全身を使って表現されては敵わない。すりすりと彼の足が私の素足を撫でていく。
「ん、でもお昼……」
今日は、偶然にも平日だというのに二人とも休みということで人気のレストランにランチしに行こうと言っていた。けれど気づいたらもうこんな時間。ランチは諦めるべきだろうか。秀一さんは収まりのいい位置へ体をずらしながら、私の耳元へ顔を寄せてくる。
「なぁ、名前」
「ん?」
「今日のランチはディナーに変更しよう。今はまだ、こうしていたい」
確かに、そうだよね。私がちゃんと準備するには一時間はかかる。今から急いで準備をしたとしても、レストランが開店する十一時には到底間に合わない。ランチは行列が出来ると聞いている。外で並ぶのは苦手だ。秀一さんは全部を分かった上で、そう言っているんだろう。
「……もぅ、わがまま」
わがままなのは私もだ。でも、この場はそう言って二人で笑い合う。私も秀一さんと向き合うように体勢を変えて、彼の温かい身体に擦り寄った。
「そうだよ、だが悪くないだろう?」
ぬくぬくし始めた私の頭を撫でながら、秀一さんは優しく笑ってくれる。
「ん、あったかい……」
秀一さんの問いかけには答えないまま、彼の胸に耳を当てた。鼓動を聞いていると心地よくて、瞼が下がってくる。もういいや。今日はこうして、好きなだけ眠っていよう。
「ん……すき、っ」
秀一さんはいつもあったかくて、やさしくて、やさしくて。
「Love you too.」
その声はしっかりと耳の奥へ届いて、じわじわと心を満たしてく。
ああ、そっか。今夜は秀一さんとオシャレなレストランでディナーだ。贅沢だなぁ。瞼の裏にはぼんやりと、昨日スマホで見たお店のメニューが浮かんでくる。でも数秒後には消えていった。秀一さんの腕の中は言葉で言い表せないほど心地がいい。お布団の中も、こんなにあったかくなる。すーすーと吸い込みたくなるような香りに包まれて、そうして私はもう少し、この微睡を味わうことにした。